あんじゅう 宮部みゆき 著

あの丸くて甘くて粒あん派かこしあん派に分かれるって、まんじゅうか‼ いいえ、前作の「おそろし」の続編、三島屋百物語の「あんじゅう」です。前作はおちかの辛い過去や、三島屋で働くことになった経緯が描かれていましたが、本編は、過去を乗り越え、百物語の聴き手として成長し、さらにお勝という、頼もしい仲間も加わりました。人の話を聞くというのは、簡単なようで難しい。身近な人には話せないことや、誰かに話すことで手放したい過去があるとすれば、三島屋のように信頼できて何の利害もない他人に傾聴してもらえると、心の荷物が軽くなりそうです。また、百物語はただ怖い話と片付けることができない人間模様が深いです。話して行くうちに、聴いてもらうことでさらに器から水がこぼれて行くように溢れてくる一種の高揚感も伝わります。中でも印象に残っているのは。、タイトルにもなっている「あんじゅう」の話です。くろすけという、臆病で警戒心の強い化け物と、紫陽花が咲いている隠居屋敷に住んでいる老夫婦との温かい交流です。くろすけのことが認識されていない時は、何者かの気配がするし、何の怖い妖怪なんだろうと恐怖が描かれていますが、くろすけを受けいれるようになってからの奇妙な共同生活は、可笑しくも温かい人と妖怪の交流になっています。それでいて寂しくもはかない世の理や、無常観も描かれていました。時代物の方が、伝えたいことを描きやすい。と
著者が言っていたのを思い出しました。人の体験を疑似体験することで、心の器は大きくなるのかもしれませんね。