おそろし 三島屋変調百物語事始 宮部みゆき 著

夏といえば怖い話、怖い話しといえばミステリー、ミステリーといえば宮部みゆきさん。ある辛い出来事をきっかけに、心を閉ざし、黙々と仕事をすることで日々をやり過ごしているおちか。叔父の伊兵衛が営む袋物問屋「三島屋」に身を寄せ働いている。いわゆる伊兵衛は、おちかにとって保護者的な存在であり、メンターである。伊兵衛がドクターなら、おちかは患者ということになる。さまざまな人達の心の傷が悲しい結末に導かれる話しにおちかは引き込まれていく。そして自らの重くて辛い過去と照らし合わせていく。それを見守る伊兵衛叔父。曼殊沙華におちか自身を重ね合わせたり、まるでユーミンの「魔法の鏡」の歌詞を思わせる、邪恋と悲恋が合わさったような話が印象的でした。また、おちかの心を重く苦しめる恋のもつれが巻き起こす悲しい事件は、ただただ悲しくなります。人間の業は、どこまでも深くおそろしい。そして、死んだ人間よりも生きている人間の方が怖いのは、毎日のニュースをみればよくわかります。